「室井さん、これ。」
青島は、二人で入った居酒屋で、黒い包みを渡した。
「なんだ?」
「ちょっと、早いんだけど。」
室井は受けとったはいいが、置きもしないで固まっていた。
「開けてみてください。」
青島はつけていない煙草をくわえながら言った。
人の顔をじっとみてから、室井が包みを開ける。
「・・・・ハロウィンか。」
「いいでしょ。こないだデパートで見つけたんです。俺も買っちゃった。」
「ふーん。で、なんで俺にくれるんだ。」
ふっと室井が見せる、不思議そうな顔。それが見たくて。
「なんとなく、ね。」
青島は笑って、ビールジョッキをあけた。
ジャック・オ・ランタン。かぼちゃをくりぬいて顔にしたもの。
陶器製だが、米国のかぼちゃ農家では実際のかぼちゃをくりぬくが、 今では街では陶器やプラスチック製が出まわっている。
それと、飴の棒にかぼちゃの飾りが付いている物。
「これは食べられないな。」
室井は棒を持って、かぼちゃの飾りを眺めた。
「いえ食べ物です。」
「・・・・もったいなくてだ。」
うっすらと笑う室井は、儚くも見える。
「君の家に飾って置いたらどうだ?」
「室井さんちに置いてください。舐めてる姿も想像してますけど。」
「・・・・・。」
「あ、ちゃんと持って返ってよ。」
言われて室井は包みを元に戻す。まさか急に貰うなんて思わなかったから、 すこし恥ずかしかった。
「すいません、サーモンのカルパッチョ。それと、サイコロステーキ。」
青島の注文を聞きながら、水割りを飲んでボウッとする室井。
「仕事、どうですか?」
「やってる。基本の捜査からなにから・・・しんどくもなる。」
「俺なんて、燃え滾るような事件ないですかって課長に言っちゃいました。」
「燃えたぎって暴走するなよ。」
「事件待ってますから。」
「本当は起きないほうがいいんだぞ。」
クギをさされて、青島がしょげる。
「俺たちって最低・・。」
「はあ・・。」


「家に行ってもいいですか?」
くるっと振り返った室井が、ちょこっとだけ表情を揺れさせて、青島を見る。
「だめすか。」
無言のまま行ってしまう室井を追いかけて、鞄を肩にかけたまま歩いていた。
駅につくと、もう帰れと言われて、ちょっと残念な青島。

「また誘います。」
「うん。」
「じゃあまた。元気で。」
「これ、ありがとう。」
包みを持った室井は、電車に乗りこんだ。
手を振る青島。
また今度。
喋った人と離れる時って、なんか寂しい。
でも、室井さんに息抜きをさせてるのが俺だけって、気分いい。
店の中で、事件のこととか言わないけど、ぼんやり飲んでるのもいいなって。
時間がたつと、目がくっつきそうなくらい良い気分の中で、行った飲食店の話なんかして、美味しい店なんか教えて・・・・。

END