「寒い?室井さん・・。」
2月の暗い車内、青島は室井をバックミラーで見る。
寒そうに自分の身を抱えている室井。
「暖房、一番強いのだよ。」
「そうか。」
今日、あまり気分がすぐれない室井を送っていくことになって、青島は ホッとしていた。
室井の部屋につけば、介抱が出来る。
顔色の悪い室井は、それでもいつもどおりにしか人に見られない。
青島のことをすがるように見る、それが青島に気がつかせたのだが、そうでなければ顔の年輪のせいで気がつかなかっただろう。
「明日は休んだら?」
「そうもいかない。事件は待ってくれない。」
「でも・・。」
「命令が下りれば、君たちのほうが寒い中を動き回らないといけないだろう。」
こみあげてくる寒気を抑えながら室井は言う。
「あとで温まりましょう。」
彼しかいない自分。彼にはすみれたち仲間がいるけど。
青島から言わせれば、室井にも警備局時代の部下達がいるとはいうが、 室井はもともと誰彼と仲良くするタイプではないので、黙っていた。
「もうすぐ着きます。」
青島はそのまま運転し、室井の借りているマンションまで乗りつけた。
「シャワー浴びててください。すぐユーターンしてきますから。」
「え?青島っ。」
「車置いてこないと。」
「おまえ、そのまま明日出勤じゃ・・。」
「でもここに止めっぱなしだったってばれるよ。」
室井は切なそうな顔をした。
「分かった、すぐもどれ。」
重い鞄を置き、コートを脱いだ。暖房のスイッチを入れる。
青島が出ていくのを見ながら、ネクタイをはずし、ベルトもはずす。
パジャマと下着を出し、シャワーを浴びに行った。


寒い冬にはとくに堪える。隙間風が自分を冷やしていく。
秋田の生まれでも、寒さは苦手だった。
東京に出たくて勉強を頑張った。その後も40過ぎるまでこうして頑張っている。
優しい青島。今日も声をかけてきてくれて、送っていくと申し出てくれて。
シャワーで十分温まったあと、風邪薬を飲んで、室井はベッドにもぐった。
最初から自分の車にしないからだ。
途中で気が付いても、後の祭だった。 辞表を提出して一週間、沖縄に行っていた室井は、休暇扱いになり、 その後捜査に復帰。
辞表は受理されず、室井はまた不調に悩まされていた。
青島しか心配してくれない。
こんな警察やめてやると思ったのに・・・。
「俺、室井さんの気持ちが分かって良かった。」

一度離れた青島だが、室井のつかえつかえの言い訳で戻ってきてくれた。 室井の顔も渋くもなろう。
「不器用はもとから、顔の皺は警察に入ってから。おまえしか理解してくれないからな。」
「今日具合悪かったのとかね。室井さんが、じつは体が弱いのとか。」
「だが今度は広島だぞ。おまえも一緒に来い、だぞ。俺は・・・。」
「移動、スムーズに出ましたよ。なんといっても、湾岸署で嫌がられてますからね。」
「う・・・君がめちゃくちゃするからだろ。」
「でも俺、今度寮なんですよね、金ないから。室井さんは?」
「向こうの官舎では君と会えない。だから安いところ、すぐ探すから・・。」
急に決まった広島行きで、しばらくホテルにいるつもりだと、室井は言う。
「すぐですよ。すぐ住むとこ見に行きましょう。」
「広島のガイド、買っておきますから。」
「君の頭の中は、もう観光か。」
「はい。室井さんと一緒なら、楽しいですし。」
にっこり笑う青島に、うすい微笑を浮かべる室井。
「明後日、先に行くから。」
「はい。俺もすぐ行きますから。」
二人は約束して、眠りにつく。