「はあ・・・。」
ため息が出る。
ついてはいけないのは分かっている。
新しい本部長だからって、捜査に手を抜くなんてことはない。
みんな一生懸命、犯人を割り出してる。
それなのに辛いのは、事件の調書の読みすぎだろう。
それに。机の引き出しにある、見合い写真・・・。

もう何度もお茶やコーヒーを出しに現れた、大卒の婦警。
容姿も太鼓判を押されるほど。

顔も見れない・・・。
流れさせるのはいつものことで。
いくらセッティングしようとしても、乗る気には。

「おつかれさまでした。」
ふと顔をあげると、課長の縞草がいた。
「もう退社なさって結構ですよ。」
言われて時計を見ると、確かに定時を過ぎていたのだが。
「中に詰めているのも気が疲れるものです。」
迷っていると、
「また明日もありますから。」
とくに何もなかったので、署をあとにする。
でも。逮捕されて、飛ばされて、気が滅入っていないことはない。


風呂に入って、タオルを首からかけたまま、ベッドに座っていた。
いきなり突きつけられた、過去。病気で、自殺で・・。
付き合ったと言っても、勉強していることが多かった。
それでもいいと言ってくれたのが嬉しかっただけで、世間一般の恋愛やデート と比べると、自分の勉強が優先で。
トサン、と後ろに倒れる。


いつのまにか眠ってしまっていた。気が付くと、朝日が昇っていて。
今日も一日が始まる。

いつものように行動して、いつものように出勤して。
仕事をして、帰って。
たまにため息をついたって、私は仕事に誇りを持っていて。
ただ。どうして時折何かを探すように、視線をさまよわせるのか。
遠くを見つめて、むなしいに近いような焦燥を感じかける時もある。
そんなの。すぐに消えるというのに・・・・・・。


仕事が終わって、疲れたらしくあくびがでる。
食事は外食。酒もやらない。
気が抜けてると、頭の中真っ白になってる。
もくもくと食べて、支払って店出て。

「室井さん。」
お見合い写真の子と、若い警官。
「一人で危ないですよ。」
確かに。暴行を受けたことが・・・。
「すぐ追いかけたんですけど。よかった、何事もなくて。」
「家まで送ります。借りてらっしゃるんでしょ。」
「行きましょう。」
「署の近くだから、そんな物騒でもないとおもいますが。」
「カメラもあるし、署から見てればすぐ出動も。」
「うん・・・・。」
「車、使うの嫌なんですか。ここのところ、あとついていってた人はいるんですけど、本部長が何もおっしゃらないので。」
「護衛つきじゃないと、動いてはいけないですよ。」
いたのか。
一人で飯食いに出たと思ったのに。
「あのー、お話苦手ですか。」
「・・・・・気にしないでくれ。」
ぽつんぽつんと若い警官に話しかけられながら、歩いて家に着いてしまう。
「戸締りを忘れないでください。」
「ああ。気をつけて帰ってくれ。」


「私なんか駄目よ。」
「なんのこと?」
「お見合いよ。署長が言ってくれたのに・・。」
「本部長?」
「写真見たかな、と思ったんだけど。」
「いつもあんなにぽつぽつとしかじゃ、ちょっと。俺にはわからないから。」
「うん。」
「あの人のなか、なにもないような気さえしてくる。」
「とりつくしまもないようよ。」


「お茶です。」
変わらず、お見合い写真の子がお茶を入れてくる。
「ありがとう。」
データ−の入っているノートパソコンを見て、室井は仕事を続けた。
顔が上げられない。
何も言わないで入ると、婦警は去っていった。
申し訳ない。
人付き合いは上手くなくて。
それに、退官するまで、私の仕事は終わらない・・・・・。